【被災地からのコラム】「希望の声」あふれる離島の学校 朝日新聞塩釜支局・鈴木剛志

住民が減り、活気を失いつつある宮城県塩釜市浦戸の救いが、子どもたちの存在です。一つずつあった小学校と中学校は、島外の子どもも受け入れる「特認校」となって子どもの数が増えました。この春には小中一貫校に統合し、浦戸の豊かな自然を生かした授業を始めるなど、新たな取り組みを始めています。震災からの復興はまだまだですが、子どもたちが浦戸の島々に希望を与えています。
東日本大震災の被災地は多くが住民の減少に悩んでいるまちでした。震災は先細りを加速させています。でも、そんなまちの希望は子ども。豊かな自然の中にあり、魅力ある授業で校区外からも子どもを集めている学校が宮城県塩釜市の浦戸諸島にあります。
島々が美しく点在する日本三景の松島。浦戸諸島はその一番外側にあります。浦戸が津波の直撃を受けたことで、松島は比較的軽い被害で済みました。「島が松島を守った」と胸を張る浦戸の島民もいます。
でも、浦戸では3人が津波で亡くなり、震災前に600人近くいた住民は今年4月時点で400人ほどにまで減りました。活気を失いつつある浦戸では、子どもの存在が一番の救いなのです。
浦戸には小学校と中学校が一つずつありました。2005年4月に同じ校舎で学ぶようになり、同時に両校は島外の子どもも受け入れる「特認校」になりました。特認校になってから、子どもの数は増えています。最近だと13年度は29人、14年度は34人、そして今年度は36人になりました。そのうち島外の子が31人を占めます。
小学校と中学校は今年度から小中一貫校になり、名前も「浦戸小中学校」に変わりました。4月9日にあった開校式では、新しい校章があしらわれた校旗がお披露目され、子どもたちは新しい校歌を歌いました。
そして塩釜出身で、声優として大活躍している「やまちゃん」こと山寺宏一さんが「素晴らしい環境の中で地域の人と交流して、楽しい学校生活を送ってください」というビデオメッセージを寄せました。
山寺さんの言葉の通り、浦戸は素晴らしい島々です。海があるし、森もある。春から初夏はツバキやラベンダーなどの花々が咲き誇ります。小中一貫校になったことで、こんな自然を生かした授業「浦戸科」が始まりました。
浦戸には塩釜市内ではここにしかない田んぼがあります。浦戸科の授業では、その田んぼでコメ作りを体験します。また、夏には砂浜でサンドアートをつくる計画があるそうです。学校の外で過ごす時間を多くすることで、浦戸の自然を満喫しようという授業なのです。
また、これまでは小学5年生からだった「外国語活動」の授業を1年生から始めています。校長先生は「小さな学校だけど、存在を世界に発信したいですね」と言っています。
浦戸の震災からの復興はまだまだ。プレハブの仮設住宅に住んでいる人が大勢いますし、津波を防ぐ防潮堤の工事も終わっていません。主な産業の漁業も震災前の水準に戻っていません。
そんな島々に子どもたちがどれほど希望を与えることか。「過疎の島に子どもたちの声が消えないのはうれしい」と話す浦戸の大人たち。温かく子どもたちを見守っています。
小さな学校に、いつまでも元気で朗らかな声が響き続けることを願ってやみません。
【写真説明】
開校式で新しい校歌を歌う浦戸小中学校の子どもたち=塩釜市の野々島