【被災地からのコラム】被災を糧に科学者よ育て 多賀城高「災害科学科」の挑戦 朝日新聞仙台総局・小宮山亮磨

宮城県立多賀城高校で7月14日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究員による特別授業がありました。2年生の2クラス約80人は、光の3原色の衛星写真を画像処理してフルカラー画像に変化する様子を体験したり、東日本大震災の前後の衛星写真から、沿岸林が津波で消えてしまったことを知ったりと、真剣な表情でした。この特別授業は、来春に予定する「災害科学科」設置準備のために企画されました。同校は、生徒たちに衛星写真の解析技術を見につけてもらい、避難計画づくりなどの防災学習につなげたいと考えています。
宮城県の県立多賀城高校で7月14日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究員による特別授業がありました。人工衛星からの画像を解析する技術を身につける、というものです。どんなねらいがあるのでしょうか。
授業を受けたのは2年生の2クラス、約80人。JAXA地球観測センターの大木真人研究員はまず、「赤」「緑」「青」の光の3原色で別々に撮影された衛星写真を、専用の画像処理ソフトで見せました。
それぞれの写真は一色だけの無機質なものです。ところが、大木さんの指導にしたがって生徒たちが3枚をぴったり重ね合わせると、フルカラーの画像がパソコンの画面に突然、あらわれたのです。「おー」と歓声が上がりました。
生徒たちはさらに、目に見えない「近赤外線」の光で撮影した写真の合成も体験しました。光合成する植物の葉は近赤外線をたくさん跳ね返すため、この光を利用して写真をとると、植物がある場所がくっきり浮かび上がるのです。
東日本大震災の直前と直後にとられた衛星写真を大木さんが比べて見せると、沿岸林が津波で消えてしまったことがよくわかりました。生徒たちは真剣な表情で見入っていました。代表してあいさつした佐藤楓さんは「衛星写真を身近に感じることができて、興味が深まりました」と、大木さんにお礼の気持ちを伝えました。
多賀城高校がこの特別授業を企画したのは、来年春に予定している「災害科学科」の設置に向けた準備のためです。
佐々木克敬教頭によると、生徒たちに衛星写真の解析技術を身につけてもらい、避難計画づくりなどの防災学習につなげたいそうです。本になった資料写真をただ眺めるのではなく、自分たちの調べたい地域を選び、そこのデータを自ら解析するというのです。観測衛星「だいち」が撮影した50キロ四方の写真のデータは、ふつうに買うと1枚30万円。安価で使わせてもらえるよう、JAXAと交渉していることも教えてくれました。
災害科学科がめざすのは、「理系に軸足をおいた進学校」です。衛星写真の解析は、あくまでテーマのひとつ。「科学英語」の授業では、専門的な論文を英語で読んだり、研究発表を英語でプレゼンしたりすることも計画中です。文部科学省による「スーパーサイエンスハイスクール」の指定もめざしているそうです。
災害科学科という名前でも、卒業生がすぐ消防士になったりすることだけを想定しているのではありません。「防災」はいわば、ひとつの切り口。大学などへ進み、専門性をいかしてさらに学んでもらいたいと考えているのです。
震災を経験した生徒たちにとって、防災は大きな関心でしょう。つらい体験を糧に、世界にはばたく科学者がうまれる。そんな日が来るのが、楽しみです。