【被災地からのコラム】被災体験を語り継ぐ10代の語り部たち 朝日新聞仙台総局・中林加南子

被災した体験を語り継ぐ活動をしている10代がいます。そのひとり、宮城県の石巻西高校2年生の相沢朱音(あかね)さん(16)が6日、七ケ浜町立向洋中学校の生徒たちに話をしました。「(震災の年の)4月の始めに、親友が亡くなったって聞かされました。そのときから、私なんて消えればいいって毎日考えていました」
震災が起きたのは、小学5年生のときです。大津波で東松島市の自宅は流され、飼っていた犬は行方不明になりました。大切な親友も失いました。
再開した学校は震災のストレスを抱えた子どもたちで荒れていました。なぜ親友は死んで、自分は生きているのか。生きている意味が分からなくなりました。中学生になっても、クラスでは「ぼっち」で黙っていました。
「自分が死ねばよかったのかな」という愚痴を、2年生のときに仲よくなった友だちが、いつも受け止めてくれました。話を聞いてくれる友だちがいる――。親友を失った相沢さんにとって、大きな発見でした。生きていいんだと思えるようになりました。
県外の同い年の子に震災のことを話す機会がありました。「海は怖くないの?」と聞かれて「怖くないよ」と答えると、その子はほっとした顔をしたそうです。自分が話すことで、親友の死が無意味なものじゃなくなるかもしれないと思いました。語り部を始め、この夏休みも県内外で10回ほど話をしました。「私はいま生きているのが楽しい。どんなにつらくても生きていればいいことがある」と伝えています。
「悲しみは乗り越えるもの?」と記者が尋ねると、相沢さんは否定しました。相沢さんは話をするとき、笑みを浮かべます。まじめな顔をすると泣いてしまいそうだから。「悲しみはここにいます。悲しみとは二人三脚です」
話を聞いた向洋中学校の2年生94人は、昨年度から震災学習に取り組んでいます。身を乗り出し、思いを受け止めようとしていました。
写真説明:真剣な表情で聞く向洋中学校の2年生たち
たくさんのメモをとっていた紀野国七海さん(13)には家を流された友だちがいます。「その子と震災の話をしたことはないけど、聞いてあげることができるかもしれない」と気付きました。
相沢さんは別の生徒から「親友に会えたら何と伝えたいか」と聞かれました。しばらく考えて出てきた言葉は「ありがとう」。親友は震災の1週間ほど前、「あかねちゃんは内気でおとなしいタイプだから仲よくしてあげてね」と、相沢さんの愚痴を聞いてくれることになる友だちに遺言のように伝えていました。その友だちはいま、語り部の活動仲間です。「いまの私がいるのはあの子の力があったから。いまも支えてくれて、ありがとう」
写真説明:講演会では相沢さんの中学時代の恩師、佐藤敏郎さんもマイクを握った。小学生の次女を亡くした佐藤さんは「不思議なことに、あの日を語ることは未来を語ることになっている」と話した。
ヘッダー写真説明:言葉を丁寧に選びながら、話をする相沢朱音さん