【被災地からのコラム】思い込め、最後の運動会 仙台・東六郷小 朝日新聞仙台総局・藤井詢也、川北真以

津波で被災し、今年度で閉校する仙台市若林区の東六郷小で9月19日、運動会がありました。震災前は地域の人も参加する秋の風物詩でしたが今回が最後になります。離ればなれになった人たちが集まり、運動におしゃべりに夢中になりました。
短距離走では、懸命に走る児童に住民が大きな拍手を送りました。6年生の渡辺来未(くるみ)さん(11)は歴代の東六郷小の6年生女子新記録を達成しました。今の児童は2、5、6年生の全8人。渡辺さんは1人で走りましたが、力いっぱい腕を振っていました。「閉校になるときに、自分の記録が残せてうれしい」と喜びました。
写真説明:大人も子どもも一緒になって玉を放った=9月19日、仙台市若林区
玉入れや、ピンポン球をスプーンにのせて運ぶ「スプーンリレー」では子どもも大人も一緒になって競い合いました。
写真説明:ピンポン球をスプーンで運ぶ「スプーンリレー」。大人も子どもも一緒に校庭を駆け回った=9月19日、仙台市若林区
6年生の庄司アリアさん(12)は「運動会が最後なのはさみしいけれど、たくさんの人が集まってくれてうれしいです」と話しました。六郷小の分校だったころに通った祖父の寿夫さん(75)は「当時は1クラス50人もいた。そういう時代が来たのかな」と閉校を残念がりました。
実行委員長の阿部東悦(とうえつ)さん(69)によると、小学校と地域が一緒に運動会を始めたのは20年以上も前です。4地区の対抗戦で、500人ほどが参加しました。児童が学校名物の和太鼓を演奏し、OBがカレーをつくる。終わった後は反省会で親交を深めました。「これが終わったら農家の稲刈りが始まるんだ」と阿部さん。
津波で校舎が使えなくなり、地域の参加は中断しました。昨夏まで仮設住宅にいた阿部さんも運動会のことを考える余裕はなかったそうです。
一方、生活が落ち着いてくると「もう一度運動会を」との声も上がり始めました。自治会役員らがばらばらになった住民に声をかけ、昨年復活させました。
運動会は再会の場でもありました。アリアさんの祖母の耀子さん(72)もこの日、久々に東六郷の人に会い、「懐かしくて感無量」と繰り返していました。震災が起きた直後に入学したアリアさんも、もう6年生。「大きくなったなあと感慨深い。あっという間の6年間でした」
阿部さんは「地域で集まれる行事をなくしてはいけない。来年以降も形を変えて、なんとか続けたい」と話していました。
被災地では、地域コミュニティーの喪失が深刻化しています。阿部さんの言葉が、実現されることを願ってやみません。
※年齢はいずれも取材当時
ヘッダー写真説明:リレーの前に「がんばるぞ」と士気を高める子どもたち=9月19日、仙台市若林区