【被災地からのコラム】「学び合う二つの被災地」 朝日新聞仙台総局・中林加南子

宮城県多賀城高校の1、2年4人が2月3~4日、22年前に阪神大震災が起きた神戸市を訪ねました。防災活動に取り組む高校生や語り部の大人との交流が目的です。震災を語り継ぐ意味などについて、災害の恐ろしさや受けた心の傷を理解する者同士だからこそ深く学び、考えることができた2日間の旅でした。
4人は、2年の齋藤優果さんと平塚亜美さん(ともに17)、今年度からスタートした災害科学科の1年、菊田ほのかさん(15)と鈴木結依さん(16)。
神戸市東灘区の中高一貫校、神戸大附属中等教育学校とは年1~2回、震災について学び、高校生にできることを考えようと相互交流しています。3日も、教師や文部科学省職員らを前に同校の生徒とともに報告会で発表をしたあと、たっぷり話し合いました。
附属校の生徒は、緊張気味の4人にどんどん話しかけてくれました。災害科学科に入った理由を聞かれた菊田さんが小さな声で、でもしっかりと、「心の傷を負った人のケアをしたいと思ったから」と話すと、附属校の生徒は感心した様子で、「へえ」という声にならない声を漏らしました。
4人は、附属校の生徒が改良を施し、災害時の行動を子どもに分かりやすく説明する防災カードゲームもやってみました。多賀城高の生徒会は防災活動に力を入れています。生徒会メンバーの齋藤さんは最近、テレビなどで聞く「風化」という言葉が気になり、自分にできることを考え始めました。「このゲームのことを学校に持ち帰りたい」と思いました。
▲写真説明:スマホアプリの話題で盛り上がる(左から)菊田さん、鈴木さん、平塚さん、齋藤さんと神戸大附属中等教育学校の生徒たち
話題は、「何を伝えたいか」に移りました。津波で両親を亡くした平塚さんは「生き残ることがすごく大事。生き残れば周りの人を笑顔にできる」と言いました。両親の話になると、今も涙が浮かびます。でも、尋ねられたら話します。どうして、と聞かれると、「みんなが身を守るきっかけになりたい」。
▲写真説明:涙を抑えながら、田中さんに両親の話をする平塚さん
附属校5年の渋谷祥子さん(17)は「亜美ちゃんが10の経験をしているとしたら、私は1かも。でも、0ではない。1の人を増やす活動をしたい」と話してくれました。
交流会での言葉のキャッチボールの後、鈴木さんは「話は聞きっぱなしではなく、自分の考えも伝えると深いことが聞ける」と気づきました。4日に、震災で大火事になった神戸市長田区の街づくりに関わった田中保三さん(76)の話を聞いた時は真っ先に感想を述べ、話し合いを活発にしました。
目の前の人を救えなかった悔いから語り部になるまでに10年かかった人のことなどを「この話、大丈夫?」と、気遣いながら話してくれた田中さん。平塚さんが、両親が勤めていた鮮魚店の近くで祖父母たちが昨年、店を再開したことを打ち明けると、「動いていたら人生開けてくると思うねん」。その言葉に平塚さんは大きくうなずきました。
▲写真説明:参加者で記念撮影
4人は先生からの指名を受けての参加で、最初は見るからに不安そうでした。でも、相手の思いを受け止め、自分の考えを伝えるうちに、どんどん学びが深まっている様子でした。笑って、泣いた2日間で得たたくさんのものを、今度はほかの人に伝えてほしいと思います。
ヘッダー写真説明:報告会に臨む両校の生徒